父が昔、話してくれた言葉です。
父は消防士でした。
仕事の話をほとんどしない人でした。
愚痴を口にすることもない、そんな男です。
若いころはアクティブに遊んでいたようで、
その一つが「登山」だったと聞きました。
仲間4人でパーティーを組み、山を決め、計画を立てる。
今から50年ほど前の話です。
装備は今とは比べものにならない。
素材の進化を思うと、時代を感じます。
私がバイクキャンプを始めたとき、
父が使っていたアルミのコッヘルをもらいました。
そのときに聞いた話です。
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「山に行くときに持っていく大切なものがある。
なんだと思う?」
テント?
寝袋?
水?
食料?
チョコレートやナッツ?
「それも持っていく。
でもな、
一番大事なのは “計り” だ。」
なぜ?
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もともと仲間内で楽しむための登山。
しかし天候が崩れ、工程が厳しくなり、傾斜がきつくなる。
余裕がなくなる。
すると人はこう思い始める。
「俺のリュックの方が重いんじゃないか?」
「あいつの方が軽いんじゃないか?」
「食料は減っているよな?」
一度そんな考えが浮かぶと、
それは揉めごとの火種になる。
だから「計る」。
重さを事実で確認する。
疑心暗鬼を、事実で断ち切るために。
父は深く語ることはありませんでした。
ただ、断片的な事実だけを教えてくれました。

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話は現在に戻ります。
年明けから、仕事漬けの日々。
今日も休日であることを忘れ、
電車の時刻表でハッとしました。
社員の出面を見れば、みな休日。
「なんのために、わたしは、今日も仕事をしているのか?」
やらされているのか?
——いや、違う。
自分が目標とする場所に立つために、
今日も一歩を積み上げている。
今朝の電車の中で、父の登山の話を思い出しました。
同じ会社でも、
仕事量の不公平は疑心暗鬼を生む。
「あの人の方が楽なんじゃないか」
「自分ばかり大変なんじゃないか」
でも、それを考え始めたら
目的を見失う。
私は何のためにここにいるのか。
仲良しこよしをするためではない。
誰かと比べるためでもない。
自分の夢を実現するために。
家族のために。
今日も前進している。
依頼されていた
8階の設置届書類、完成。
明確に、今日の一歩は前進だ。
稼ぎ出すのは、
「時間」と「お金」。
そして何より、
自分の未来だ。


